こころの健康豆知識メニューへ戻る

 
生きる力
 

 社会の近代化は、モノ・カネの豊かさと便利を供与してくれました。その反面、生活の中での人と人との繋がりを希薄化させ、自己解決能力や自分癒しの力を衰退させてきたようにも思います。生きる力の減衰と言っていいのかもしれません。実際、人といると疲れる、人と接するのが怖い、集団の中に入れない、と訴える若者が増えております。

 精神医学は内科や外科と違って対人関係の臨床学ですので、人間関係の不調から生ずる孤独や悲哀、時には怒りや憎悪などといったネガティブな感情を扱うのですが、近年は相談者自身の生きる力の弱さに起因する人間関係上の問題が多くなっております。本来は学校教育や社会教育などの課題であったこの力の育成が、精神医療にまで求められる時代になりました。

 ある生徒は、授業は受けられても休み時間が辛い、とくに昼食を共にする相手がいない昼時が一番苦痛だといいます。大人が相手してくれる保健室や心の教室に逃げられる生徒はまだしも、逃げられない生徒は引きこもるしかありません。彼らに共通する弱点は、人に嫌われる不安ゆえに能動的には人と関われない、人間関係構築のスキルの乏しさです。相手が関心を寄せて接近してくれるのを待つ姿勢なのです。このように関係性を希求していながら受動的な対人態度は、自己発見や仲間作りを甘言とするカルト教団や自己啓発セミナーに走る若者のメンタルヘルス問題としても、かねてから取りざたされてきたものです。

 さて、生きる力をWHOはライフ・スキルと呼んで、「日常生活の要求や挑戦にうまく対処できるように、適切かつ積極的に行動するための能力」と定義しております。コミュニケーションの技量や共感能力、情動対処能力、意志決定や問題解決の能力、批判的思考などの十項目のスキルを挙げて、人生早期からその育成教育が必要だと提唱しております。

 その基礎となるのが対人関係なのですが、匿名性を帯びた生活世界が便利となった現代社会では対人関係のスキルを育みにくいのは必然です。とくに現代っ子の発達心理で重大なのは、ギャング・エイジ集団の喪失です。つまり思春期前の同性同世代の自然発生的に形成される仲間集団の体験です。子どもに遊ぶ時間も遊び場も無くなったことや、親が子どもの生活の自由度を管理する家庭文化などが背景因として指摘されております。

 生きる力の育成には、人と人との繋がりを復権し、その中で自己肯定感や自己効力感を育むような体験が必須とするゆえんです。

こころの健康豆知識メニューへ戻る

 

 

※無断転載・無断引用は禁止します。