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児童思春期の精神障害と不登校
 

 

 

小・中学生のうつ病と不登校について

 

抄録 不登校のすべてが心理性格因に起因するわけではない。しかし、この現象に児童思春期の精神・行動障害がどの程度介在しているかの充分な知見はまだない。

開院の二年間で小学生41名、中学生90名が来院しており、小学生の42%、中学生の74%が不登校を伴っていた。疾患別ではうつ病と睡眠リズム障害はほぼすべてが不登校に直結しているが、一方でADHDの小学生、反抗挑戦障害・行為障害の中学生では衝動性による学校不適応にもかかわらず不登校に陥っていない。不登校生徒の33.3%は小児・思春期うつ病であったが、その学校復帰率は78.6%と良好で治療が早期であるほど予後は良い。しかし神経症圏の不登校(いわゆる不登校)では46.3%と低かった。治療的には、外来診療とデイケアを併用している事例の方が社会性の改善率が良い結果から、不登校を伴う子どもの心理発達にはカウンセリングに加えて三者関係の場を併用するのが望ましいといえよう。

はじめに 不登校について学校臨床の理解はとかく心理社会的な解釈に傾斜し、精神生理的な精神障害によっても起因しうるという見方は看過されがちであった。それは、これまでの精神科外来は不登校をもっぱら疾患モデルで捉えて言説し、しかもあまり治療的な成果が上がらなかったという学校心理臨床からの不満や批判もあってのことだと思えば当然なのだが、しかし昨今では生育因で語られていた学校困難な事態が神経心理や精神生理的に解明されつつあるのだから、不登校についても心因説の偏向からそろそろ解放されていい頃合いではないかと思う。

児童思春期外来を有する諸施設の統計では3-4割もの不登校が来院しているが1,2,4)、精神行動障害がどのように関与しているかについては十分に明らかにされていない。とりわけ子どものうつ病については学校保健ではその存在すら十分に認識されていず、学校困難を長引かせているケースも少なくないと思われる。

 

精神科外来における小中学生

 当院は開業2年半ばであるが、過去二年間に全外来者数の約一割に相当する131名の小中学生(小学生41人、中学生90)が来院している。疾患別に見ると、小学生は神経症圏、小児うつ病、ADHD&/or LD、および抜毛癖、夜驚症、チック症などを含むその他でほぼ四等分している。中学生では神経症圏が約半数を占めて最も多く、次いで思春期うつ病が23%と多い。不登校を伴っている者は小学生で41.5%(17/41人中)、中学生74.4%(67/90人中)であった。(図表略)

ここでいくつかの注釈を入れておきたい。医学的な診断はICD-10に準拠しているが本論の統計分類では、神経症圏に身体化障害、強迫性障害、パニック障害、解離障害等と操作診断される精神症状を含めており、したがってこの類型の不登校は文科省のいわゆる不登校と見てよい。またうつ病圏では内因性うつ病だけでなく気分変調症も含め、行動障害では行為障害、反抗挑戦性障害、ADHDを、コミュニケーション障害には表出性言語障害、アスペルガーを入れている。

さて本論の「不登校」は、年間欠席30日以上という文科省の基準に準拠はしていない。日数を満たしていなくとも不登校が持続しそうな心身状況にある者、また文科省では出席扱いにしている保健室や心の教室登校の生徒も本稿では不登校に計上して折、つまり「不登校傾向にある生徒」を意味している。

 

 不登校を疾患別に見ると、小学生では小児うつ病と診断された9名中7名が不登校傾向にあり77.8%と最も高かった。11名のADHD&/or LDでは学習上の困難を抱えながらも不登校を伴っていないという興味深いデータであった。中学生では思春期うつ病と睡眠リズム障害(睡眠相後退症候群、非24時間睡眠覚醒症候群)では100%、統合失調症では85.7%が不登校に陥っていた。(図表略)

 

外来不登校と小児思春期うつ病

 傳田による内外の文献学的な推計では児童期のうつ病有病率は0.5-2.5%であり、北大病院精神科外来の児童思春期患者の27.1%を占めている3)。しかし気力や興味関心、知的活動の減退を中核とする子どものうつ病がどの程度不登校に帰結しているかのデータはまだない。

 当方外来の小中学生全体に占めるうつ病は22.9%(30/131人中)であり、不登校児に占めるうつ病は小学生で41.2%、中学生で30.3%であり、不登校生全体では33.3%(28/84)であった。(図表略)

 

うつ病の小学生事例

A(小学校5年生・女子) X2月下旬に初診。「朝昼食がムカムカして食べられない、朝から疲れていて」、断続的な不登校に陥っているという主訴。母親によると、冬休みあたりから、笑わなくなった、暗い表情で無口になった、少しやせた、「風船が窄んだみたい」と形容する。本人によると、それまでおいしく食べられていた給食が12月頃から、美味しくない、無理して食べると喉につかえる感じ、教室が食事のニオイで気持ち悪い、冬休みは体もだるく、部活も休んでいた。小児科では、血圧を上げればいいという診立てで薬をもらっていた。年齢相応に見て比較的大柄、自身の状態をよく言語化ができる。学校では同級生の信望も厚く生徒会役員などを担当している成績優秀児 、几帳面、生真面目、誠実なタイプ。一見して、疲れた表情、学校日の有無にかかわらない不調で、夕方や夜になると幾分元気が出るという日内変動も明らかで、小児うつ病と診断。

 

B(小学5年生男子) X8月下旬の夏休みに初診: 6月中旬ごろから不登校。少年サッカーの選手として活躍していたのに、母の目からも朝からだるそうにぐったり横になっていて、朝食を取らず痩せてきた、「疲れた」と連発するようになった。本人によると、すごくだるく、疲れる、無理をすると頭がグラングランして、立ちくらみもある。かかりつけの小児科では低血圧症と成長に伴う貧血という診断で昇圧剤のみ処方されていたが、夏休み中も遊びに出かける元気もなく、不調を自覚している。宿題は全部済ませてあるが、二学期学校へ行けるか不安だという主訴である。明らかに疲れた表情で、しかも貧血様顔貌、低血圧(90/58)、やせ型(32kg/144cm)。同伴した弟(3)によると「午前中はダラーンとしていて、蛇みたい」だが、夕方になるとキャッチボールなどで遊んでくれるという日内変動を認める。まじめで、気の優しい、しっかり者、几帳面で完璧主義的という母の人物評価。

 

子どものうつ病は大人と違って精神症状が目立たないのが特徴的である。宿題や勉学に意欲関心を失せてしまうので家族からは怠惰と誤解されがちだが、よく観察すると趣味や関心事も楽しめず、全般的に不活発で笑わなくなった、しかも疲労感、倦怠感といった全身不調の訴えに、明らかな食欲低下、吐き気などで痩せてくることから単なる怠けと見られなくなる。立ちくらみや頭痛を呈する低血圧症はよく伴いやすい自律神経症状である。これらの症状が朝から午前中に一層悪く夕方や夜には軽快して幾分活気が出てくるという日内変動が学校休日にも認められれば、ほぼうつ病と診断していいだろう。抗うつ薬のSNRI,SSRIが奏効するので、早期に治療に結びつけば不登校期間を長引かせずにすむ。

 

不登校生徒の短期予後

 不登校児の外来経過について分析してみたい。17名の不登校小学生では、9(52.9%)が学校復帰していて、4(23.5%)は不登校が持続している。他4名は外来中断していて不明。中学生では、59.7%の学校適応改善率で、そのうち外来のみのケースでは45.2%だが、デイケアを併用した中学生では84%の高い改善率となっている。(図表略)

 

当クリニック外来では中学生以上を対象とした若者のデイケアを週5日間開設し、表現療法などの集団によるワークを多く導入している。その一日平均利用者数は約25-30(内、中学生は毎回35名の参加で学校では出席扱い)で利用者の平均年齢は20.1歳である。利用期間は数日でドロップアウトする者から一年以上利用する者までまちまちだが、その対人関係スキルや社会性開発の予後は単なる外来診察だけの事例よりも良い結果が得られている。子どもの社会化の促進には、薬物療法と心理療法という二者関係の外来治療だけでは限界が多く、学校に代わりうるフリースペースやデイケアなどの三者関係的な場で異年齢との出会いが治療教育的に重要であるといえよう。

(「精神科臨床サービス」 平成167)

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