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不登校・引きこもりの精神病理と集団療法
 

1.はじめに

 不登校児・引きこもり当人が自発的に医療を求めることは、まずない。したがって事前の、しかも長期にわたる家族相談が必要となるのだが、その相談からは彼らは退却態勢に自我異質性を感じていながらも自らの生活を変えようとする能動性は乏しく、現実にたいする無力的な構えが見えてくる。仮に首尾よく精神医療に結びついても、個人精神療法だけではその生活態勢を変える力には、なかなかならない。

 それは、彼ら自身の精神病理に起因しているように思う。とくにコミュニケーション・スキルの未成熟性と対人的怯えの心理や自己像の不確かさ、自己感の曖昧さなどによる。彼らを成長促進するには二人称的な個人精神療法だけでは足らず、「群れる場(三人称的世界)」での「自己肯定感」や「自己効力感」を育む体験が必要とされる所以である。

 ここでは、非精神病性の、いわゆる不登校・引きこもりの対人様態や自己像などの精神病理をまず描写し、精神科デイケアという三人称世界がもつ成長促進的機能について論考したい。

 

2.治療の場へ導入する家族の関わり

 引きこもり者が自ら相談に動くことはほとんどない。多くは、家族の相談で始まる。引きこもる子どもにどう関わるべきか、医療に結びつけるにはどうしたらいいものか、という親の相談である。いわばマニュアルを求めての来談である。

 残念ながら、うまい殺し文句はない。引きこもりが長引くほどに、親は戸惑い自信を失い、子は卑屈となり自己否定を深め、親子の関係は一種の冷戦構造のように硬直化したまま時が流れていく。

 しかし、その相談の中から家族にいくつかの指針は提示できよう。

 まずは、「自然な」親子交流の回復を目指すにはどうしたらいいかである。引きこもりを直そうと躍起になって逆に家庭内暴力を惹き起こしてきた経緯から、下手なことを言ったら荒れるのではないかという予期恐怖が、子どもを王様か客扱いしている場合が多い。子ども自身も引きこもりをよしせずに自己否定しているのだから、まずは子どもにどう安心を与えられるかにかかる。そのためには、親の側がその様態を否定して強圧的に動かそうとしない姿勢が重要となる。

 第二に、関心世界の共有である。引きこもっていても子どもは社会にアンテナを張っているもの、内閉していても子どもは豊かな内的世界を展開している。その関心世界を把握し尊重できるかにある。引きこもってもアニメを描き、詩を書き、小説を読んでいるものである。それに気づかない親、気づいても評価しない親が多いが、しかし非現実的であれ子どもは案外生産的な活動をしていて、インターネットや雑誌から入手する情報から外界と繋がり、関心世界を育んでいるのだ。安心して引きこもれている現状が保障されていれば、子は内的世界を親に開示する時が来る。その関心世界を応援できれば、親子に自然な交流が回復しよう。そのためには子に対して課題達成的な期待を強制しないよう、いったんは親の価値観・人生観を棚上げする心構えが必要である。

 自然な関係が復権できれば、抵抗なく、計らいなく親も自分の関心や感動体験を伝えられよう。おいしかった店、すばらしかった観光、面白かった話、何でもよい、親子が四方山話をできるようになれば、「誘惑の効用」というべきか、子もそれに食指を伸ばすだろう。関心を示したら一緒にそれを実現すればいい、親子による関心の共有から交流はさらに自然なものになるはず。親子の話に学校や医療で相談した内容が介入して来れば、子どもは自分一人では生活を変えられない無力感を自覚しているのだから、支援を求めて外に動く時が必ず来るものだ。しかし、親相談から子どもの医療受診までの時間の長短は、親子関係における自然さの回復度合によると言える。

 第四に、親自身の集団療法である。引きこもり、不登校を抱える親のための家族教室に参加されたい。親の戸惑いと試行錯誤の関わりを相対化するのに都合が良いし、なによりも親自身の安心感のためである。

 

3.引きこもりの精神病理

 親という仲介人から子どもが来談することになるが、多くの場合もっぱら悔いる過去だけを語る。そこを聴かなければ子どもは理解のない治療者として拒否しかねないが、そこに拘泥していては先に進まない。「過去を変えようとするのでなく、今を変える」という動機とその勇気を与えられる、今ここを大切にするカウンセリングが当面のテーマとなる。

 彼らとのカウンセリングから、いくつかの弱力な性格的特徴が見えてくる。

 まず成育史のなかで、

  1. 仲間体験の乏しさ、つまりギャング・エイジを経ていないこと。

  2. 小中学時代にいじめられ体験があり、それゆえに同世代に対する対人不信、対人緊張となっている。ギャング・エイジの欠落といじめられ体験は、後々まで尾を引いて同世代との交流を困難にしている。

  3. 成功体験や達成感が乏しい、あってもその後挫折していること。

  4. 生活体験に乏しく、関心世界が狭い。

  5. 自己評価が低く、将来志向性に乏しい。

  6. かくありたいより、かくあるべしにこだわっている(多くの場合、親の価値観の取り入れによるが)

  7. 人の評価・承認に過敏。

  8. 自我で悩めない、あるいは自己の感情を言語化するのが下手。したがって身体化しやすく(女子はよく泣く)

  9. 困難や失敗可能性に回避的構えを示しがちで、

  10. 暴発よりも、孤立・佇み、時に自虐行動、解離症状を呈しやすい、といった成育史や性格傾向が見えてくる。

 個人精神療法という二人称関係に安心感が保障されれば、患者はデイケアやフリースクールといった三人称的世界へ関心を示すようになるが、それがなければ渡る世間は鬼だらけであり、二人称世界に佇みカウンセリングも膠着しやすい。三人称世界へと押し出す力は、引きこもり者が内的に醸成している関心世界を治療者が共有し評価するカウンセリングにある。




4.長信田の森の集団療法

 長信田の森では、引きこもり者のための若者宿(生活塾「自在館」)を併設している。起居をともにし、生活体験を共有するのである。日中はデイケア・プログラムに参加するのだが、そこから見える彼らの対人関係様式は、

  1. 対人関係のスキルが低い(挨拶行動の萎縮・言語化が下手)

  2. 他者に無関心を装う構えで、能動的に働きかけない

  3. 人間関係を希求していながら受動的・待ちの姿勢 

  4. 大人との交流は抵抗少ないが、同世代同性と結びつきにくい

  5. 傷つきやすさゆえに、拒否・否定されることに弱い、拒否されないように・嫌われないように嫌々ながら人と付き合っている

  6. 自己抑制的で主張できない

  7. 気に入った相手、事柄、活動にしか興味を示さない

  8. 自分の気持ちをうまく言語化できない

  9. 全体のために動かない、などである。
 このような対人関係様式は、前述したギャングエイジの欠落といじめられ体験と無縁ではない。かれらの傷ついた未成熟な対人関係スキルを開発するには、二人称的なカウンセリングだけでは不十分であり、長信田の森では三人称的な体験活動としてデイケアを実施している。

 そのプログラムの構成は、

  1. 自然をフルに活用した農作業等の協同体験

  2. スポーツ等の身体活動を手段とする情動解放

  3. 自己を表現し、分かち合い、内省する集団心理療法である。

 その活動例を挙げるならば、
  1. 社会化教育活動の例:NIE(教育の中に時事問題を取り入れる総合学習)、ドリカムプランなど具体的に社会の場に出て取材し、発表しあう企画、さらには英検・漢字検定など具体的な目標を掲げて勉強するプログラムなどを導入している。

  2. 身体性・表現教育の例:ドラマ制作(映画化)、ロールプレイなどによる表現活動とそのシェアリング、あるいは子どもたちによる祭りの主宰、木工作品等の販売活動は自己効力感の足しになろう、また達成感を獲得するための100km野宿行軍などの実施である。

  3. 社会参加の体験:地域の老人ホーム、障害者施設へのボランティア活動や近隣商店、温泉ホテルへの丁稚奉公は彼らの社会的関心を現実的にするだけでなく自己効力感を育んでいる。
 さらには、通信制高校と提携している点でほかの青少年向けデイケア活動と違った特徴をなしている。不登校・引きこもり者はレポート提出は守れていても、スクーリングという集団学習の場から退却するために、通信制高校の留年・退学も余儀なくされている場合が少なくない。デイケアに参加して高校卒業を目指すプログラムである。そのためには、教員免許を有するスタッフによる勉学・レポート作成の支援を必須とするが、デイケア・プログラムの教科教育化と単位認定化も必要となる。

5.引きこもりの集団療法論(まとめ)

 治療者・患者という二項的な関係からは育みにくい社会化の場として三人称関係が重要である。精神医療の場ではデイケアがその任にふさわしいのだが、そのプログラムは治療よりも成長促進的・開発的な性質の教育プログラムが必要とされる。

 つまり、

  1. 安全感の保証(安定的な二人称関係=逃げ場)とデイケア等の三人称世界の体験野(社会化の場)を用意し、そこでは

  2. 達成体験による自己肯定感の共有、

  3. 当面の目標設定による向上欲求の開発、

  4. 人に役立つ体験、感謝される体験、必要とされる体験から自己効力感の育成し 、

  5. 緩やかな社会参加(ボランティア、丁稚奉公、アルバイトなど)から社会的成功体験を育みたい。

「心と社会(日本精神衛生会)

039月号原稿

 

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