|
|||||||||
農繁期にもかかわらず、田んぼに出ても腹から胸の辺りがもやもやする、早目に切上げてもひどく疲れやすく、すぐ横になりたくなる、などと訴える農家の人があります。 農家の方々だけではありません。この時季は、誰にとっても春の緊張で心身の乱調をきたしやすいのです。 自覚症状から内科や胃腸科などの身体医療を受診するのですが、特別の異常がなければ自律神経失調症と診断されるかと思います。しかし安定剤等の加療を受けても、症状がなかなか改善されない時には、うつ病が隠れているかもしれません。 実は精神症状は目立たず、自律神経症状が前景となっている「仮面うつ病」という、うつ病があります。胃部不快感や食欲不振、口渇、便秘・下痢といった胃腸系症状が多く、不眠や全身倦怠感はほぼ必発します。患者はもっぱら身体症状の苦痛を訴えるので見えにくいのですが、家人に聴くと、億劫がる、なんとなく不活発で無口になった、些細なことでも迷って決断できないなどの、軽度であっても精神運動の活力低下が認められるものです。 そもそもうつ病の語源である「メランコリア」は黒い胆汁という意味ですから、胃腸症状を伴なう苦悩は古今東西あったようです。仮面うつ病(masked depression)は、うつ病として「未成熟」ですので、精神症状が顕在化しない間は見逃されやすい(missed depression)のです。しかし、うつ病は大脳生理的なリズムの機能障害でもありますので、朝から午前中にかけてもっとも不調で、夕方や夜には少し楽になるという症状の日内変動や、寝つきは良くとも早朝に覚醒してしまう睡眠リズムの障害があれば、まずうつ病と診立てていいでしょう。 けっして「からっぽ病み」「せやみこぎ」などではありません。エネルギーが出ないのです。更年期障害にホルモン補充療法が適切であるのと同様に、うつ病でも脳内ビタミンの補給と休息が必要なのです。今日では、副作用の少ない多種類の抗うつ剤が開発されていて、治る病気です。
|
|||||||||
|
※無断転載・無断引用は禁止します。
|