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そもそも「ハル(春)」は、ものに篭(こも)り宿った霊魂、生命力がその威力を発動する意味(日本民俗語大辞典)なのだそうです。草木の芽が「張り」、田畑を「懇(は)る」のと同じように、私たちの春も自分を育んでくれた世界(冬、故郷、母校、前任地等々)から人生の新しい発達段階へと出立するエネルギーが胎動する時季です。 しかし春は、自身の中に開花や成熟の可能性を内包していても、結実の保証がない不測な情況でもあります。しかも移動に伴なう別離は悲哀を、生活上の変化は不安を私たちに与えずにはおきません。 実際のところ、精神科外来では早春から初夏にかけて来談者がもっとも多く、一番慌ただしいのです。「職場(学校)の雰囲気がつかめない」「何をしていいかわからない」「落ち着かない」「疲れやすく、体がだるい」などの心身の不調を自覚します。初発例だけでなく、既往症の再燃や悪化も少なくありません。 大脳生理に乱調をもたらす日照時間の伸長や気温上昇などの気候変化も無関係ではないのですが、心理学的には新天地での新たな人間関係や役割がまだ獲得できずにいる不安定さが原因となっております。 実は、その不安定こそが発展の可能性を秘めた緊張なのです。ある心理学者によれば、成長とは自己像を壊すプロセスです。つまりこの緊張は自分を変えることへの怖れと言ってよいでしょう。しかし、私たちの「臨床の知」では、危機の時こそが成長発展のチャンスなのです。 患者が、少しでも安心や勇気をもって、決断と実行ができるように支援するところにカウンセラーや精神科医の仕事があります。「迷う者は路を問わず」と荀子は教えております。出立に向けた、心の随伴者として私たちを気楽に活用すればいいのです。「張る」に潜む成長可能性を開拓していくために。
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